この料理は成都の名店『栄楽園』の創立者である藍光鑒(ラングァンジエン)が、自然を重んじる道教の精進料理を参考に生み出した料理と言われています。人参とセロリと葉ニンニクを豆板醬で炒めたシンプルな料理です。シンプルなだけに、シャキシャキとした食感が重要で、全ての材料を細く均一に揃えることがポイントになります。人参の甘さのなかにセロリの爽やかさ、そして葉ニンニクの辛味と香りがアクセントに。最後に豆板醬と黒酢で味付けをし、野菜の味を引き立てます。
料理名の『野鶏紅(イエジィホン)』。こちらは人参、セロリ、葉ニンニクなど野菜の色を野鶏(やけい キジの別名)の羽根の色に例えて名づけられました。野鶏はニワトリの原種で、セキショク野鶏・ハイイロ野鶏・セイロン野鶏・アオエリ野鶏の4種のうち、セキショク野鶏が鶏の祖先と言われています。セキショク野鶏はオスとメスで見た目が異なり、オスの首まわりは赤味を帯びた金色をしており、暗緑色など光沢のある美しい羽根を持ちます。今でも南方アジアの密林に生息するほか、中国の南部地区にも数多く生存していることが知られています。
昔は四川省北部の山奥にも野鶏がよく見られていたと聞きます。その美しい色彩の羽毛に魅せられて料理のタイトルにするなんて、まるで詩人。中国の料理人の豊かな感性に感銘を受けたのでした。因みに藍光鑒は成都博物館で「現代の四川料理にもっとも影響を与えた5人の中の1人」として資料が残る人物。四川料理を志す私にとっては神のような存在です。私が所属する松雲門派は『栄樂園』の二代目の料理長「張松雲(チャンソンユン)」から名付けた流派。今こうして藍光鑒が築いた一門に所属していることを誇りに思います。
春になると新人参が登場しますね。寒い冬を超え、甘くみずみずしく育った人参は野鶏紅に最適です。少しお肉を入れても美味しいですよ。
伝統四川料理を今に伝える成都・松雲門派の正統な継承者であるシェフ井桁良樹が日本人が知らない本当の四川料理を提供します。この記事を見て飄香に興味を持った方は、以下のコンテンツでより詳しく私たちについてご覧いただけます。